第3話・演出は「目的」振り付けは「手段」

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顔色伺うプレイヤーに自分を売れると思えない。

前ページで『多くの方は振り付けと演出の区別がついてないらしい』と言いました。説明すると『演出とは目的。振り付けは手段』です。
 
 
なるほどわからん! 詳しく?
 
 
例えば収録中「この後すぐ!」って原稿があったとします。プレイヤーの読みを聞いた上で、僕から「次のドキュメントパートにつなぐために”切り返しがつくように”言ってくださーい」とオーダーを出したとします。
で、プレイヤーが読み直しても良い効果が得られないとき、僕はやむなく一例を出します。例えば「こんな感じで、似てなくて良いから売れっ子の○○さんがやらんとしてることをやってみてくださ〜い」などですね。
 
 
「○○さん風に」っていうのは、必ずしも即物的な「モノマネを求められてる訳でもなかったんですね。
 
 
で、その「○○さんっぽく」をやってもうまくいかないことも良くあります。そこで僕としてはもう一段踏み込んでついに口に出して実演します。「例えば”この後す〜ぐッ!”とかかな」って。
ここで、プレイヤーはピンとこないまま言われた通りに口に出す場合があるんです。「この後すーぐ!」とかですね。で僕としては「すーぐ!じゃなくてす〜ぐッ!って感じにできます?」って言うんですけど。
 
 
ふむふむ?
 
 
この場合の目的は「切り返したい」です。だから「す〜ぐッ!」でも「すぅぐー!」でも「すぐーーーーーッ!」でも良い。そもそもご本人のサンプルなんだから勝手に原稿変えて「CMの後ー!」でも、なんでも構わないんですよ。演出サイドはただ提案が欲しいだけなんですけど‥‥
 
 
‥‥ですけど?
 
 
プレイヤーが「”この後す〜ぐッ!」を漠然となぞりだしてる時って、目的が抜け落ちたままだから当然うまく読めないわけですね。そしてだいたい読み直した分だけ迷宮にハマっていくパターン‥‥
 
 
く‥‥!わかりみがすぎる!
 
 
そういうとき演出サイドの心の動きは「このひと、目的もなしに手段だけを読み上げてそれがナレーションのアピールだと思ってるのかな‥‥?」ってなってくるんですね。
 
 
む、胸が痛い‥‥。ディレクションに応えたいって気持ちで、視野が狭くなっちゃってるだけなんでしょうけど。
 

 
僕もプレイヤーなので気持ちは痛いほどわかります。でも「この人現場でも同じことしちゃうんだろうな」って思いますし「この人このまま現場に出しちゃいけないな」とも思うんです。
現場のスタッフだってきっと鬼じゃないから、ナレーターが下手だったとしても、一生懸命にGiver(与え手)側にいようとしてさえいたら、向き合ってくれると思うんですよね。
 
 
頑張ってついていってることが、教えて君やぶさ下がり君に見えてしまうんだとしたら、それは気をつけたい!
でも私も自分のサンプル収録で「他に何かできる?」とか聞かれちゃった日にゃ自信満々に出せるプレイなんて‥‥はっきり言って‥‥無‥い‥‥!
 
 
そりゃそうですよ!当たり前じゃないですか!
 
 
へ?! なくて良いの?! 
 
 
どれが正解かなんて誰にもわからないですから。演出側も最初から正解なんて求めてないんです。ましてやご本人のためのボイスサンプルの場なんですから。
こうやるけど聞いてみて?これもやってみるけどどう?って、ただ順番にやってみせてくれればそれで良いんですよ。何テイクでも。
その中でフィットするプレイが出たら即採用するし、磨けば光そうな原石プレイが出たら、一緒に削っていくのが演出側の仕事です。
 
 
「揉んでく」ってやつだ!
 
 
新人さんの中にはブースで落ち込んで、文字通り頭抱えちゃう人もいますけど‥‥。そこまで追い詰まったんならもうバーン!ってドア開けて「15分散歩してきます!」って飛び出ってくれれば良いんですよ。どんよりさせるよりゴキゲンでいることでGiver(与え手)になれてますよね。
散歩して何も思いつかなかったとしてもバーン!て戻ってきて「残念!何も思いつかんかった!そのパートはカット!うわーん!」って笑いとってくれればそれで十分オッケーです。
 
 
楽しんでて良いもんなんですね‥‥
 
 
職業ナレーター(お金とる側)なんだから、エンターテナー(与え手)でいないとね。
真面目すぎる新人が陥りがちなボタンの掛け違いの一つに、ディレクターの認識を「アマのナレーター」「アマの講師」って捉えてしまっていることがあります。ディレクターは「プロの視聴者」です。味にものすごく詳しいけど”あくまでカウンターの外のお客さん”。トークバックから聞こえるディレクションは、カウンターの中の料理人同士の会話ではないんです。
 
 
あ〜、だから最初から振り付けを求める姿勢がダメって感じるってことか!話が繋がってきた!
 
 
あなたがお客さんだったとしてカウンター越しに料理人から「指示して?」「真似するからやってみせて?」「こう?こう?」ってどんよりしながら聞かれてもね。冷めるでしょ?
 
 
料理だけにね‥‥!
第1話

向き合いたいから。

胸張って料金を請求したい

 

第2話

表現者同士リスペクトしあいたい。

 振り付けは極力やりたくないんです

 

第3話

演出は「目的」。振り付けは「手段」。

顔色伺うプレイヤーが自分を売れると思えない

 

第4話

感想(ポエム)と説得(プレゼン)は別物。

ビジネスorアート?それが問題だ 

 

第5話

「仮説」と「そうはならんやろ」の違いを生むもの

心を燃やせ

 

第6話

プレゼンの語源は「プレゼント」なんだから。

義理チョコならぬ義理サンプル